円相場は米国ドルに対してだけではなく、主要通貨のほとんど全部に対して大幅に安くなっている。他国が政策金利を引き上げ始めてから1年以上たち、米国も欧州も大幅に金利を引き上げている中で、日本だけマイナス金利を続け、円のたたき売りをしている。3~9月の半期決算発表企業の52%が増益になっているなんて報道されているが、その9割は30%の円安のおかげだろう。円安に頼るしか増益にならない日本企業の歴然とした現状を表している。今回は円ユーロ相場の推移を見てみよう。「安全通貨」なんて言われていた円の凋落ぶりが明らかだ。ロシアウクライナ戦争は欧州に天然ガス危機をもたらした。通常であればユーロ相場は下落するはずである。ドルユーロ相場は、戦争が始まる前の去年1月は1ユーロ1.13ドル台であった。戦争が始まるとユーロは下落し始め、去年8月後半から1ドルを割り込み、10月には0.97ドル台まで下落した。およそ16%の下落である。その後ECBの政策金利の引き上げに伴い戻し始めたが、現在でも1.06ドル台であり、戦争開始前までは戻っていない。すなわちユーロは米ドルに対して戦争開始時点よりユーロ安の状態である。
円ユーロ相場は、ロシアウクライナ戦争が始まる前の去年1月は1ユーロ130円台であった。戦争が始まった翌月の3月に125円台に上昇したが、すぐに戦争開始時点より円安になり、4月に135円台に下げ、6月には早くも141円台の円安になった。ドルユーロ相場と正反対である。その後142円台をつけた後7月後半から8月前半にかけ136円台をつけたがすぐに円安の戻り、9月に143円台、10月146円台の安値をつけた後戻りはじめ、今年の1月には138円台になった。そこが円の高値になってその後下げ始め、2月143円台、4月147円台、5月150円台、6月157円台、8月158円台、11月に入って161円台後半になっている。下げ幅23%ほどの円安だ。円安は米ドルやユーロにとどまらず、シンガポールドルに対しては、およそ38年ぶりの安値をつけたとのこと。日本銀行の円安政策の威力がいかにすさまじいかよくわかるだろう。ブルームバーグの記事によると、ドイツ銀行の為替調査グローバルヘッド、ジョージ・サラベロス氏は顧客向けリポートで、「利回りや対外収支といった円相場を動かしている要因を一見すると、円はトルコ・リラやアルゼンチン・ペソと同じ部類に属する」と言っているそうだ。さらに続けて「円を防衛する日本の介入は良くて無力、最悪の場合には状況を悪化させることになるだろう」と言っているそうだ。円相場があのジェットコースターのように上げ下げを繰り返すトルコのリラと同一部類とは。今や円の信頼性は地に落ちたというべきか。日本銀行の円安政策に起因する物価上昇による実質増税は、とどまるところを知らないというべきか。