私が過去10年で予想したことの大半は多かれ少なかれ、外れてしまったが、その中でも最大の予想違いは、米国が日本の円安政策を非難しなかったことだ。私は、円安は、米国への日本の輸出品の価格競争力を高め、米国企業からの反発によって、いずれ米政権から非難され、円安政策を継続できないはずだと確信していた。日本から輸出された自動車が、米国の自動車メーカーを危機的状況に追い込んで、日本製の自動車が、米国の自動車メーカーの従業員に叩き壊されている映像の記憶が今でも鮮明にある。日本メーカーの現地生産が大きく進み、そこで働く米国人の労働者も大幅に増えたにしても、米国の利益第一は、共和党でも民主党でも変わりはないから、円安政策を容認するはずがないと思っていた。米国財務省の今年6月16日発表の為替報告書では、為替操作監視対象リストからさえ、日本は除外された。私の予想の何が間違っていたのか、今でもわからない。裏取引でもあったのだろうが、それが表に出ることは、同一政党の政権が続く限り無い。
1ドル100円の為替レートの時、日本企業の米国子会社が1ドルの利益を上げたとしよう。日本円に換算した利益は100円だ。それが1ドル140円の円安になったら、米国子会社の1ドルの利益は、日本円に換算すると140円になる。米国子会社のあげた利益は1ドルで変わらないのに、円安だけが理由で、日本の親会社の利益は40%も増えるのだ。まさに濡れ手で粟である。外国に展開している日本企業が円安を渇望するのは当然なのである。これを日本の消費者からみれば全く逆になる。1ドル100円の時100円で買えた品物が、1ドル140円なら同じ品物に140円支払わなければならない。価格が40%上昇したということだ。円安による企業の増加利益は、円安による物価上昇によって、消費者の損失に転嫁されるのである。賃金と物価の好循環などと政権に踊らされ、今年の賃上げは何十年ぶりの3.9%とかメディアは騒いでいたが、厚生労働省が6月6日に発表した4月の「毎月勤労統計調査」の結果によれば、賃金については前年比で1.0%増えただけであった。私の購読している新聞は、実際の賃金上昇率と自ら騒いでいた賃あげ率が、大きく乖離していたなんて報道はしなかった。他も同様であろう。経団連の会長が、消費税などの増税から逃げてはいけない、なんて言ったが、円安政策で、棚から牡丹餅の利益を得ている企業は、その利益を物価高であえいでいる消費者に還元することから逃げてはいけない、と言うべきだろう。
米ワシントン・ポスト紙とABCテレビは9月24日、バイデン大統領の不支持率が56%、支持率が37%との世論調査結果を発表した。バイデン氏の次期大統領選の出馬理由は、民主主義を守るため、ということのようだ。であるならば、大統領選の候補を今からでも辞退し、他の人に譲るのが、民主主義を守るための最善の策であろう。大統領選の候補者が、バイデン氏以外の民主党の候補者であれば、トランプ氏に勝てるだろう。米国民はバイデン氏もトランプ氏も次期大統領としてふさわしくないと考えている、との報道がしばしば聞かれる。権力を一度手にしたものは、その魅力に味を占めて、手放そうとはしないと言われるが、バイデン氏も御多分に洩れずということか。