熊谷徹氏の『ドイツ人はなぜ、年290万円でも「豊か」なのか』は読んでいてとても楽しくなる本だ。読んでいて楽しいので2回目を読んでいる。日本人とドイツ人のサービス精神の違いなどゲラゲラ笑ってしまう。例えば「客の要望より店の決まりを優先」という見出しでこのようなエピソードが紹介されている。「ドイツの商店では、それぞれの店員の仕事が厳密に決まっており、与えられた任務以外はやらない。」日本のお役所仕事に似ている。「たとえば、パン屋ではこんな光景をよく見かける。ドイツのパン屋ではショーウインドウや奥の棚にパンが並べられている。このため客は店員に欲しいパンを注文し、包んでもらわなくてはならない。」「あるパン屋でカウンターの後ろに2人の店員が立っていた。カウンターの前には5~6人の客が列を作って自分の順番が来るのを待っている。2人のうち、1人しか客に対応しないので、時間がかかる。彼はパンを売るだけでなく、店内で食事をする客のためにコーヒーも作らなくてはならないので大忙しだ。しかし、もう1人の店員は彼を手伝わずに、のんびりとショーウインドウのガラスを拭いている。このため、1人の客が横から割り込んできて、ガラスを拭いている店員にパンを注文しようとしたところ、その店員は「私の同僚に注文してください」とにべもなく断った。客は「チッ」と舌打ちして、しぶしぶ並んでいる客の列の後ろについた。ドイツではしばしば目にする光景だ。」「この国の店や企業では、職務分掌が厳しく決められており、いくら忙しい時でも、他の人の仕事を取ることは許されない。」「お客様は神様ではない。「パンを買いたかったら、我が店の決まりを守って辛抱強く待て」。
日本の唯一の成長産業である観光業が絶好調である。絶好調の根本の理由は円安である。自国通貨に対して30%も円安であれば10万円の旅行費用が7万円で済む。買い物でも以前来日した時よりも30%も安ければ、あれもこれも買おうとするから観光客の落とすカネが大幅に増加している。熊谷氏はサービス砂漠のドイツ、おもてなし超大国日本と書いている。日本の商店で働く店員の丁寧な態度、客思いの親切な対応、日本は気配りの国だ。熊谷氏は言う。「日本では、商店やレストランで代金を払うと、客に対して「ありがとうございました」という時に、身体の前に手を揃えて最敬礼する店員が多い。」あ!これだと思った。スーパーでのレジ係で皆ではないが、手を前に揃えてお辞儀する人がいる。そうされると何となく気分がよい。近隣の中国韓国台湾の観光客は、自国ではあり得ない最敬礼のようにお辞儀されることによって、王様のような気分になれるということも、日本旅行を好む理由の一つだろう。中国や東南アジアの国に行ったのは、はるか昔のことだが、思い返せば、日本の店の接客態度とは雲泥の差であった。